高齢者の方にはバランス機能の低下が見られます。
本記事内容は、そんなバランス機能を維持・向上させるための訓練方法についての解説です。
- 道具を使わないバランス訓練
- 道具を使ったバランス訓練
- バランス訓練をするときに意識すること
理学療法士もしくは作業療法士1年目の方や実習中の学生は、バランス訓練で何をしたらいいのか分からない、なんてことはないでしょうか。
私も訓練をしていく中で、自身のバランス訓練のバリエーションの少なさに悩んだことがあります。
今回の記事はこのような悩み解決するために、バランス機能の維持・向上のための訓練方法を紹介します。
作業療法にも役立つような道具を使った訓練も紹介しています。
また、本記事の後半ではバランス訓練をする際に意識すべき点も紹介しているため是非最後までご覧ください。
リハビリで行うバランス訓練
バランス訓練には様々な方法があります。
訓練で良く行われているバランス訓練は以下です。
- リーチ動作訓練
- 重心移動訓練
- 外乱に対する姿勢制御
- ステップ動作訓練 等など
今回はこれらを元に、様々な状況を想定したバランス訓練を紹介します。
例えば、座位で行うバランス訓練や立位で行うバランス訓練では、それぞれやり方がすこし異なります。
クライエントをしっかりと評価したうえで、この後紹介するバランス訓練を行いましょう。
座位:道具を使わないバランス訓練
まずは道具を使わない座位のバランス訓練から紹介していきます。
道具を使わない座位バランス訓練は以下です。
- 骨盤の運動
- 座位での重心移動訓練
- 座位でのリーチ動作訓練
- 座位での外乱に対する姿勢制御
- 座位での下肢の挙上
工夫すればまだまだレパートリーはあるかと思いますが今回は上記の5つを紹介します。
それぞれの訓練を解説していくので是非訓練の参考にしてください。
骨盤の運動
骨盤の前後傾を促しましょう。
高齢者や入院後に筋力低下をしている方は、骨盤が後傾しているパターンが多いです。
骨盤後傾した状態では、猫背な姿勢となり、腹圧(いわゆるインナーマッスル)が掛かりにくいです。
腹部にしっかりと力が入っていないとバランスの制御にも影響がでます。
骨盤後傾している場合は前傾運動が行えるよう訓練をすることが大切です。
また、反対に骨盤が前傾している方もいます。
特に女性に多いと言われている姿勢ですね。
骨盤が過度に前傾していると背部の筋が固くなり腰痛が出現する可能性があります。
骨盤が前後両方とも動くように、座位での骨盤前後傾の練習をします。
座位での重心移動訓練
座位で姿勢を整えた状態から、各方向に重心移動を行います。
訓練を繰り返していく中で徐々に重心移動の幅が広がるように意識しましょう。
介助にて誘導してもいいですが、本人の自動運動でも行うようにします。
この際意識したいのは、重心移動時の下肢の反応(骨盤挙上など)、頸部体幹の立ち直りを出現させることです。
座位でのリーチ動作訓練
先ほどの重心移動訓練に、上肢の操作が加わったのがリーチ動作訓練です。
上肢を、目的に向かって伸ばしていき重心移動を促す訓練です。
自分は自身の手をターゲットにして、患者様にタッチしてもらう形でリーチ動作訓練を行います。
前後、左右のリーチ動作訓練も大切ですが上方や下方への訓練も行ってみましょう。
上方に手を伸ばした際は重心位置が高くなり、下部体幹の力も必要となるため、意外と苦手な方が多いです。
また、背部の緊張が高いと下方リーチが難しくなります。
日常生活では床から物を拾ったり、上に手を伸ばして物を取ることもあるため様々な方向の練習をしましょう。
座位での外乱に対する姿勢制御
座位で外乱を加えた時の姿勢制御を行います。
この際、立ち直り反応も見ますが、倒れそうになった時に、上肢で体を支えるための反応が出るかの評価も行いましょう。
座位での下肢挙上
座位の状態で両方の下肢を挙上します。
体幹失調の評価に使われる姿勢ですが、私はたまに訓練で使うことがあります。
麻痺や失調の方で、体幹の協調的な運動を促したいときはこの姿勢保持でバランス訓練を行います。
下肢挙上の姿勢が安定して取れる場合、この姿勢に外乱を加えて難易度を高くします。
座位:道具を使ったバランス訓練
先ほどは道具を使わない訓練でしたが、今度は道具を使った座位の訓練を紹介します。
道具を使った座位バランス訓練は以下です。
- 座位での輪入れ
- 座位でのバランスクッション
- 座位でのキャッチボール・風船バレー
道具を使うことで訓練自体が楽しくなったり、退屈しない訓練になったりします。
また、認知機能が低下した方には道具を使った訓練の方が、訓練内容が伝わりやすい場合もあります。
座位での輪入れ
先ほど紹介した、座位でのリーチ動作訓練と目的は同じです。
患者様に輪を持ってもらい、棒などのターゲットに引っ掛けます。
投げずに重心移動と手のリーチのみで動作を遂行します。
輪入れを使った訓練の場合は、認知機能が下がってきている方でも指示が伝わりやすいです。
また、自身が後方に介助に着けるため、少し攻めた距離でのリーチ動作訓練が行えます。
座位でのバランスクッション
バランスクッションの上に座り姿勢保持を行います。
バランスクッションの上に安定して座れる場合は、少し難易度を高くして、バランスクッションの上で重心移動やリーチ動作訓練を行ってみましょう。
バランスクッションを用いると、支持面が不整地なため、立ち直り反応がより出現しやすくなります。
座位でのキャッチボール・風船バレー
バランス訓練として風船バレーやキャッチボールを行うこともあります。
ボールを拾う際や風船をたたく際に、様々な方向に重心移動が誘発されます。
また、スポーツやレクに近い訓練になるため、楽しいと感じる方が多いこともメリットのひとつです。
転倒を考慮して背もたれ着きの椅子を使う、周りを配慮して広い場所で行うなど、環境面の調整には注意が必要です。
立位:道具を使わないバランス訓練
先ほどまでは座位の訓練でしたが次は立位の訓練です。
立位のバランス訓練は座位訓練よりも難易度が高くなります。
今回紹介する道具を使わない立位訓練は以下です。
- 立位での重心移動訓練
- 立位:片手支持でのリーチ動作訓練
- 立位:支持なしでのリーチ動作訓練
- ステップを伴ったバランス訓練
- タンデム(継足)での姿勢保持
- 踵上げとつま先上げ
- 腰回し
- 片足立ち
それでは一つずつ解説していきます。
立位での重心移動訓練
座位同様に静的立位の状態から前後左右に重心移動を行います。
この際も立ち直り反応に注目しましょう。
また、過度に重心移動をした際に、ステップ反応が出るのかも評価の視点になります。
様々な方向に訓練を行い重心移動の幅を広げましょう。
立位:片手支持でのリーチ動作訓練
立位でのリーチ動作訓練を行います。
まずはベッド柵や手すりなどを利用し、片手で身体を支持した状態から行ってみましょう。
立位:支持なしでのリーチ動作訓練
支持物下でのリーチ動作訓練が安定して行えるのであるれば、次はフリーハンドでのリーチ動作訓練です。
前方、左右だけでなく振り返りながら後方に手を伸ばすといった動作も訓練として行います。
この体幹の回旋動作が苦手な方も多いです。
生活で行うであろうと予測される動きを想定して、リーチ動作訓練ですると良いです。
立ち直り反応を見ながら、リーチ距離の拡大とふらつきの軽減を目指しましょう。
ステップを伴ったリーチ動作訓練
ステップを伴ったリーチ動作訓練も行います。
ターゲットを少し遠くに設定して、リーチ動作に加えてステップも出現させたバランス訓練です。
日常生活の自然な動きでは一歩踏み出して手を伸ばすという場面は多くなります。
タンデム(継足)での姿勢保持
継足姿勢での姿勢制御は難易度が高いです。
左右の姿勢保持が苦手な方はすぐにふらついて転倒してしまう可能性があります。
継足が難しい場合は足を一歩前に出した姿勢でのバランス訓練をしてみましょう。
継足に比べると少し難易度が低くいです。
継足姿勢の保持が安定して行えたなら、継足歩行に挑戦するのも方法のひとつです。
踵上げとつま先上げ
立位で足を肩幅程度に広げ、つま先上げと踵上げを行います。
立位での姿勢制御には、足関節戦略と股関節戦略があります。
ここで紹介する踵上げとつま先上げは、足関節戦略での姿勢制御を強化・維持するための訓練です。
- 後方に重心移動した時に足関節の背屈方向の筋活動を行い姿勢制御を行う。
- 前方に重心移動した時に足関節の低屈方向の筋活動を行い姿勢制御をする。
上記のような足関節の活動を用いた姿勢制御の仕方です。
主に働く筋肉として、前脛骨筋、下腿三頭筋が挙げられます。
高齢者には、この足関節の反応が乏しい方が多いです。
この反応を促すために立位での踵上げや爪先上げを実施します。
注意点として、踵上げの際は腰を剃りすぎないようにしてください。
また、つま先上げの際は、可能な限り腰を曲げすぎないように意識して訓練をしましょう。
腰回し
立位で足は肩幅程度に広げ、腰をぐるぐる回します。
先程は立位での姿勢制御で足関節戦略を紹介しました。
足関節戦略ともう一つの戦略が股関節戦略です。
- 股関節を曲げて姿勢を保つ反応
- 腰を伸ばして姿勢を保つ反応
高齢者には足関節戦略が乏しい方が多く、股関節戦略で姿勢制御をしている方が多いです。
立位での股関節の動きが不十分では、重心移動時やふらついた時の姿勢保持がうまく行えない可能性があります。
足関節と股関節、両方の反応に焦点を当てて訓練しましょう。
片足立ち
片足立ちで姿勢保持を行います。
高齢者や麻痺の人にとっては難易度の高い訓練になります。
片足立位はバランスの評価でも利用することがあります。
立位:道具を使ったバランス訓練
次は道具を使った立位のバランス訓練を紹介します。
道具を使った立位のバランス訓練は以下です。
- 輪入れを使ったバランス訓練
- お手玉を使ったバランス訓練
- バランスクッションを用いたバランス訓練
- 布団・マットの上でのバランス訓練
- 家事動作訓練
道具を使うことでより生活動作に近い動作を練習することができます。
輪入れを使った立位バランス訓練
座位同様に、立位でも輪入れを使ったバランス訓練をすることがあります。
輪入れを使ったバランス訓練では、輪を棒に入れる訓練だけでなく、遠くに手を伸ばして輪を取る練習も行います。
日常生活では手を伸ばして物を取る、といった場面がたくさんあるからです。
輪入れを使った立位訓練の際も、片手支持、フリーハンド、ステップを伴う訓練と段階づけることで安全に行えます。
お手玉でのバランス訓練
生活に向けた訓練として、お手玉を使ったバランス訓練を行うことがあります。
良く行うのは、床にお手玉を置いて拾う訓練です。
日常生活では床から物を拾う動作は結構あります。
そういった時の転倒予防のために行います。
バランスクッション
バランスクッションの上に立ちながらバランス訓練を行います。
バランスクッションの上は不整地となるため、ただ立っているだけでもバランス保持の訓練になります。
足底に感覚入力されるのもメリットのひとつです。
まずは手すりを使って立つなど段階付けて行いましょう。
布団・マットの上でのバランス訓練
布団やマットの上に立ちながら、重心移動やステップ動作、歩行訓練などを行います。
高齢者の方には、自宅で敷布団を使用している方が少なくありません。
そういった方達には、敷布団の上に立って動く機会があります。
敷布団の上は、床の上とは異なりふかふかしているため、バランスを保つのが少し難しいです。
布団の上を歩いた時に転ばないように、こういった訓練も行います。
家事動作訓練
自宅で行う家事動作を想定した訓練を行います。
より自宅環境に近い場面で行うと良いです。
高齢者の方でも自宅で家事を行う方はたくさんいます。
家事は立ちながら行う物が多く、それなりにバランス機能が必要となります。
自宅での家事の習慣をしっかりと聴取したうえで、家事動作に近い訓練をしましょう。
バランス訓練をする際に意識すること
ここまで様々なバランス訓練を紹介してきました。
最後は、バランス訓練を行う際に、意識するべきことを紹介します。
バランス訓練を行う際に意識したいことの項目は以下です。
- バランス訓練の難易度調整
- どの方向にふらつきやすいのか
- 筋力や感覚、関節可動域の評価
- 普段の生活でどんな動きをするのか
- 転倒リスクに注意
闇雲に訓練を行っていても、求めている効果は得らにくいですし、怪我に繋がること可能性もあります。
上記の項目をしっかりと意識して訓練しましょう。
バランス訓練の難易度調整
難易度は、高すぎても低すぎても効率的な訓練効果は得られません。
『現在の患者様の身体機能では少し難しいけど頑張れば遂行できなくもない』このくらいの難易度で訓練を提供しましょう。
難易度が低すぎては、簡単すぎて訓練効果は得られません。
逆に難易度が高すぎると、不適切な姿勢となったり、求めていない場所に力が入ったりして訓練効果が得られにくくなります。
患者の身体機能に合わせ、適切な難易度調整をしましょう。
どの方向にふらつきやすいのか
患者様が『どの方向にどんな時にふらつきやすいのか』をしっかり評価します。
評価を踏まえたうえで、苦手な部分を訓練することで日常生活での転倒リスク軽減に繋がります。
例えば「足を一歩踏み出した時に左右にふらつきやすくなる」「振り返った時に後方にふらつきやすくなる」など、どんな場面でどの方向にふらつくのかをしっかり評価しましょう。
筋力や感覚、関節可動域の評価
筋力や感覚、関節可動域の評価もしかっかり行いましょう。
バランス機能の低下が、筋力低下や感覚障害、関節可動域制限など、何が影響して起こっているかをしっかり評価します。
原因は一つではないこともたくさんあります。
バランス機能を向上させるためにはバランス訓練も大切ですが、原因となっている筋力低下や可動域制限の改善をすることも大切です。
普段の生活でどんな動きをするのか
普段の日常生活でどんな動きをするのかしっかりと聴取しましょう。
家事をするのか、高い所に手を伸ばすのか、段差を跨いだり登ったりするのか、患者様の生活によって必要な動きは変わってきます。
生活の動きを把握したうえで、それに合わせて訓練を提供します。
極端な話、日常生活で全くしない動きの練習をしても、日常生活で使わないのであればあまり意味はありませんよね。
転倒リスクに注意
バランス訓練中の転倒には十分注意しましょう。
ふらつきやすい患者様の場合、しっかりとそばについてバランス訓練を行います。
フリーハンドのバランス訓練や難易度の高いバランス訓練を行うときは、いざという時に掴める手すりのそばで行うなど細心に注意を払います。
せっかく訓練して良くなってきた身体も、転んでケガをしてしまっては元も子もありません。
他の訓練にも言えることですが、安全にしっかりと配慮して訓練をしましょう。
まとめ
今回はバランス訓練の方法と、バランス訓練をする際に意識するべきことを紹介しました。
本記事のまとめは以下になります。
- バランス訓練にはリーチ動作、重心移動、外乱、ステップ動作訓練などがある
- 道具を使うことでバランス訓練のレパートリーが増える
- 道具を使うと認知機能の低下している方にも訓練内容が伝わりやすいことがある
- バランス訓練だけでなく、必要な筋肉や関節可動域の訓練も大切
- 座位から立位、手すり把持からフリーハンドなど段階付けて訓練を行う
- 日常生活により近い場面を想定して訓練を行う
- 転倒には十分注意する
バランス訓練には様々な方法があります。
どんなバランス訓練を提供するべきかを考えるのは難しいことです。
しかし、求めている動きや反応が出せれば、間違いということはありません。
より効果的で楽しめる訓練を提供できるといいですね。
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